体育館に向かう渡り廊下で、嵐くんに会った。


「嵐も見に行く?」と梨花ちゃんが声をかけると、「当たり前だろ」と彼は笑った。

それから視線をゆっくりと動かして、静かに私を見る。


「なあ、美冬……」

「うん?」


嵐くんは一瞬言葉を選ぶように口を閉じて、それから言った。


「見るんだな、雪夜のライブ」


少し迷ってから、私はこくりと頷く。


雪夜くんには怒られるかもしれないけれど、やっぱりどうしても見てみたかった。

彼がギターを弾くところを。


嵐くんは「そうか」と呟いてから、まっすぐに私を強く見つめた。


「見るなら、覚悟を決めとかないといけないぞ」


いきなりそんなことを言われて驚き、私は唇で「覚悟」と小さく繰り返した。

嵐くんが深く頷く。


「覚悟を……全てを認めて、受け入れる覚悟を」


一言一言を噛み締めるように、彼はゆっくりと言った。


でも、私には意味がよく分からない。


嵐くんは少し困ったように笑って、それから私の肩にぽん、と軽く手をのせた。


「……雪夜のこと、理解して……受け入れてくれたら、嬉しい」


最後のほうは声がかすれて小さくなって、よく聞き取れなかった。


言い終えてから、付け加えるように嵐くんの唇が動いたけれど、聞こえなかった。

でも、彼は『もう一度』と言い添えたような気がした。


『雪夜を受け入れてくれたら嬉しい……もう一度』と。