えっ、と小さく声を上げて目を見開いた嵐くんは、それから声を落として、


「……いいのか?」


と訝しむように言った。


雪夜くんは少し黙ってから、「まあ、いいよ」と呟いた。


「聴かれるよりは……」


なんの話をしているんだろう。

二人の会話の意味が見えない。


梨花ちゃんも同じようで、不思議そうに首をかしげて聞いていた。


奇妙な沈黙が流れたあと、雪夜くんががたんと椅子から立ち上がった。

歩いて私の目の前に立つ。


「そういうことだから。見に来ないでくれ」

「うん……」


気圧されて頷いた私の肩を梨花ちゃんがぽん、とたたいてから言う。


「でもさあ、せっかくだから見たいよね。友達が演奏するんだから」


すると雪夜くんは、


「……まあ、梨花だけならいいけど……」


と小さく言って、それから私に視線を落とした。


「とにかく、お前だけは見に来るなよ」


念を押すように言って、雪夜くんは教室から出て行ってしまった。


「……ええーっ!? うそ、なになに、なんなのあれ! ちょっと、美冬ー!」


梨花ちゃんが興奮したように抱きついてきたけれど、私は雪夜くんが消えたドアから目が離せない。


何かが釈然としない。

納得できない。


雪夜くんの言動は、どう考えても不自然だ。


でも、それを確かめる手段を私は持っていなかった。