頬にひやりと冷たいものを感じて、目が覚めた。


起き上がって頬に手を触れて、濡れていたので驚く。


「……涙?」


どうして私は泣いているんだろう。

怪訝に思って、しばらくぼんやりしていたら、唐突に思い出した。


そうだ、夢を見ていたんだ。

不思議な夢。

温かくて、幸せな夢。


ベッドから降りて、昨日の晩、財布の中にしまったものを取り出す。

涙の雫の形をしたピック。


「これ、誰かからもらったもの……?」


記憶に靄がかかったようで、何も思い出せない。

でも、あの夢が本当なら、私はあの人からこれをもらったのだ。


顔を思い出そうと頭を捻って、でも思い出せない。

夢の中のあの人は、どんな顔をしていただろう。


「……だめだ。忘れちゃった」


でも、とても優しい人だったことだけは覚えている。

優しい声で話して、優しい微笑みを浮かべて、優しい指をしていた。


寝ぼけていた頭がはっきりしていくうちに、少しずつ、『おかしい』という思いが沸き上がってきた。


どこにしまったか思い出せない四冊目の日記。

いつ手に入れたか思い出せない宝物たち。


「……私、何か、忘れてる?」


とても、とても大切なことを、私は忘れてしまっている。

そんな気がした。