「……とりあえず、入ってみるか」


嵐くんが言ったけれど、なぜか誰も返事をしない。

嵐くん自身もじっと教会を見つめたまま、微動だにしなかった。


奇妙な沈黙が流れる。


「……なんか、怖い……っていうか、なんだろう、圧倒される」


梨花ちゃんが小さく囁くように言った。


私も同じことを思っていた。

この教会を前にすると、言葉にできないような不思議な気持ちになる。

ぞくりと鳥肌が立って、自然に背筋がぴんと伸びてしまう感じ。


でも、恐怖ではない。

怖いから入りたくないとか、怖くてどきどきするとか、そういう感情とは違う。


畏怖、という言葉が、この感覚に一番近い気がした。


「……じゃあ、帰るか?」


ぽつりと呟いたのは、雪夜くんだった。


「別に無理して中に入る必要はないだろう」


静かに独り言のように言う。

すると梨花ちゃんが首を横に振った。


「ううん、大丈夫。ちょっとびっくりしただけで、入りたくないわけじゃないから。むしろ、中がどうなってるのか、すごく気になる」


行こう、と梨花ちゃんが歩き出し、嵐くんもそれに従った。

私も後を追う。

黙って立っていた雪夜くんの横を通ったとき、彼が小さくため息を吐き出したのが聞こえた。