「で、学校サボって、ぜーんぶ忘れて、どうするつもりだったわけ? ずっとここで寝てるつもりだったわけじゃねえだろ?」
「……祖母の家に、行こうかなって」
「ふーん。この猫も行くのか?」
くいっと顎で黒猫を指す。猫は不満そうに彼を一瞥しただけでなにも言わなかった。黒猫は彼のことをあまり好きではないみたいだ。プライドが高そうだから、彼のように強引な人は苦手なのかもしれない。
「それは、どうだろ……」
言われてみるまで考えてなかったけれど、たまたま出会った猫だし、一緒にいく、というわけじゃないと思う。
「そのばーちゃんちってどこにあんの? よくわかんねーけど、そのへんは覚えてるわけ?」
「あ、うん……A市。多分、大丈夫」
「ふーん。それ、俺も付き合っていい?」
「え!?」
な、なんで?
思わず大きな声を発してしまって、隣の黒猫もビクリと身体を震わせて、耳をぴんと伸ばして私に向ける。
「俺暇だし、おもしろそーじゃん」
いや、だからって、なんで一緒に? 初対面の人と一緒に数時間も一緒に過ごすとか、私にできるのかもわからない。今だって、人見知りのせいでうまく話せていないのに。
狼狽えている私を無視して、彼が腰を上げた。「んじゃ行くか」と自分から言い出したくせに、そんなやる気満々、といった様子もない。本当によくわからない。
この人にとって、ただの暇つぶしなんだろう。
得体のしれない私という人物と一緒にいることに、なんの抵抗も感じてないだろうし、疑問にだって思ってないのが、わかる。この黒猫にしたってそうだ。しゃべることには驚きながらも、そこを深く考えてない気がする。考える気が、ないのかもしれない。
「行かねえの?」
「い、行く、けど」
私の自転車のそばに、いつのまにか置いてあった黒色のかっこいい自転車に手をかけて彼が振り向く。
今更断るわけにもいかない雰囲気に、慌ててカバンを手にして立ち上がった。
このまま彼と一緒に行動することに、多少の不安は感じるけれど、途中で飽きてどこかに行くかもしれないし、まあ、いいか。よくわからない人だけれど、悪い人でもなさそうだし。
言葉は悪いけれど、適当で、無気力で、その場その場で過ごしているような感じがある。……私とは、正反対のような、そんな人。どう話して一緒に過ごせばいいのかわからないけれど、深く突っ込んで話を聞いてくるような人じゃないのはわかったから、そういう意味では楽かもしれない。
「ぼくも行く」
「……え? な、なんで?」
見知らぬ人に続いて、黒猫までもがそう言い出した。
「理由なんてないさ。行きたいだけ。だから連れてけ」
強い口調で言われてしまうと、否定しにくい雰囲気になってしまう。もごもごと「いいけど、でも」と曖昧な返事をするけれど、猫にとっては返事なんてどうでもよかったのか、無視して自転車に近づいていく。