それが全て自分に返ってくるわけじゃないのはわかっている。
どんなに頑張っても上手になれなかったり、点数があがらなかったり。
でも。なにも変わらないわけじゃない。
頑張らなかった私と頑張った私は、どこかで何かが絶対変わってる。
「あたしたちに好かれることなんて頑張らなくていいから、あたしたちの前で、頑張らなくていいように頑張ってよ、って、さっきの友達が言ってくれたの」
「さすが、お前のことよくわかってるな」
頑固だね、とも言われたっけそういえば。自分で気づかなかったけれど、やっぱり私は頑固だったんだろうな。
少し先に、学校が見えてきた。たった一回サボっただけなのにすごく久しぶりに思えて、ちょっと緊張してしまう。
同じ制服を着た人たちがどんどん周りに増えていって、彼にとって今までの私は、こんなふうにすれ違ってもなにも感じないなにも知らない、そんな存在だったんだろう。
「前に、壱くんを見かけたことがあるんだ」
「マジで?」
ふーんと、特に驚いた様子はなかった。
「誰もいないグラウンドで、ずっと、サッカーゴールを眺めていたよね」
誰もいなかったことを考えると、あれはテスト前の部活も休みの時期だったと思う。
私は、たまたま、美和子と帰ることがなくてひとりで歩いていた。
まだ、必死だったとき。
勉強の仕方に自信がなくなって、闇雲に教科書を開いて参考書を何ページも捲って、次こそはと自分に言い聞かせていた頃。
誰もいないグラウンドを、ただじいっと見つめていた。
何かをしていたわけじゃないのに、張り詰めた空気をまとっていた。それを見ただけで、胸がとても苦しくなって彼から目をそらせなくなってしまった。
頑張れ。頑張って。頑張ろう。
あの日から、私は、壱くんを見かける度に心のなかで自分と、壱くんに、そう口にしていた。彼の姿を何度も探しだして、見つめていた。
壱くんは「そうだよ」とも「違うよ」とも口にはしなかった。ただ小さな声で「ふーん」と他人事のように口にしながら苦笑を見せた。
「また、今日から頑張るか」
「……そうだね」
ふと、交差点の先に黒猫の姿が見えた。まるで、私と壱くんの姿を確認しに来たいみたいに、じいっと私たちを見つめている。そしてすぐに、風に溶けるみたいに、姿が見えなくなった。
隣を見ると、壱くんも同じ方向を見つめていてる。