休み明けの月曜日は、もう春なんじゃないかと思うほど、晴れ渡った青空が頭上に広がっていた。

 といっても、もちろんまだ冬で、まだまだ寒くて、暖かくなるにはもう暫く時間がかかることはわかっている。


 でも、もうじきに春になる。


 私に向かってくる風はまだ冷たいけれど、春になるまでのもう少しだけのものだと思えば自然と頬がゆるんだ。

 朝の空気はとても澄んでいて、空は真っ青で、部屋に閉じこもっていれば今日はとても温そうに思えただろう。


「茉莉どーしたの?」


 隣を自転車で走る美和子が私に問いかける。


「いい、天気だなあと思って」


 素直にそう答えると、美和子も空を仰いで「だねえ」と嬉しそうに返事をしてくれた。

 また、こんなふうに隣を並んで走れるなんて、先週の私は想像もしていなかった。

 学校に行くのが嫌になって、突発的にとはいえおばあちゃんの家に向かうなんて、今考えれば随分無茶をしたなあと思う。

 そもそもおばあちゃんの家から帰ってくるだけでも、なんでこんなことをしたのかと後悔するくらい体中がギシギシになってしまった。


「ねえ、茉莉、もうすぐテストだね」
「……そっかー。この前の分の授業、出てなくても分かるかなあ」


 口にすると、美和子が「コピー取ればいいじゃん。茉莉ならすぐできるでしょ」と言ってくれた。


 多分、今日はずっと美和子と一緒だ。

 友達とみんなでお昼ごはんを食べるだろうし、また美和子がクラブを終えるまで私は図書室で待っていたりするんだろう。


「で、壱くんとはどーなの?」
「え? え、いや、なにも……」


 突然彼の名前が出てきて、動揺を隠せないまま前を向いて自転車をこぐ。どう、ッて言われても、一緒に帰っただけ。なにもない。


「連絡先は?」
「……聴いてない」


 にやにやしている美和子に、恥ずかしさを隠しながら小声で答えると、大げさなほどの「えー!?」という叫びが空に響き渡った。


「なにしてんのよー! 今まで他人だったんだからら、チャンスだったのに!」
「だだって……なんか、恥ずかしくて」
「そういうもんだから、それは仕方ないの。なんとか頑張って」


 もじもじしながら言い訳を口にするも、美和子には通用しない。ぴしゃりと言い切られて、最後に私の背中をぱん、と大きく叩いた。

 いた、と反応する私の声をかき消すように背後からチリンチリン、と自転車のベルが響いた。振り返った先では壱くんが「よ」と手を上げた。


「じゃあ、私先行くから」
「え? ちょ、ちょっと美和子!」


 彼の姿を確認するなり、美和子はまるで彼が天敵のようにすごい勢いで自転車を走らせてあっという間に蟻のように小さくなっていった。そんなにあからさまに応援されるなんて生まれて初めてで、どう反応していいのかわからない。

 壱くんは軽く首を傾けて「なにあれ」と友達を〝あれ〟呼ばわりした。