◇


 瞼が、熱い。

 そう思ったら、視界が急に真っ黒から白色に変わって、私の意識に光を与えた。

 ちょっとくすんだ、白い天井が私を見下ろしている。
 障子から光が差し込んでいるのに気がついて、やっとここがおばあちゃんの家だったことに気づいた。気づいたけれど……私、なんで寝ているんだろう。


 自分のベッドの布団よりも少し重い掛け布団。足許に固まっている毛布。布団に入った記憶はないのに、私は今、布団の中にいる。


 昨日、私、おばあちゃんの家に来て、ご飯を食べて、お母さんたちと会って、そこから、なにをしたっけ? 泣いた記憶はあるけれど、そこから先が全くわからない。頭に手を当てて考えてみたけれど、何も思い浮かばなかった。


「起きたか」
「っわ! びっくりした!」


 突然の呼びかけに、がばっと上半身を起こして声のした方に振り返ると、黒猫が目をまんまるにした驚いた表情で私を凝視している。

 しっぽが畳の上でぱたんぱたんと揺れていた。


「……なに、してるの?」
「なにも」


 間髪入れずにそう答えられた。いや、まあ、そうなんだろうけど。

 障子の向こう側に、眩しいほどの太陽が上がっているのだろう。黒猫の毛が光に反射してキラキラと光って見えた。


「あ、起きてる」


 スッと引き戸が開かれて、そこには制服姿の壱くんが立っていた。私の顔を見るなり、面白そうに口角を持ち上げて「ひでえ」と言いながら近づいてきて、腰を落とした。


「昨日、泣きつかれて寝たんだよ、お前」
「……え、え? え! あのまま?」
「そう、あのまま」


 どこまで叫んだんだろう……。ぐるぐると記憶を呼び戻すけれど、どれだけ思い出しても自分一人が叫んで泣きわめいてるシーンまでしか浮かんでこない。

 あのまま寝てしまった、ってことは、ひとりだけ言いたい放題叫んでしまったって、こと、だよね。

 結構子供っぽいことを叫んでいたような気がする。わがままで、自分勝手なことばっかりだった。お父さんやお母さん、お姉ちゃんの気持ちなんて無視したような叫びだったはずだ。

 話ができたら、と、思っていたのに。

 真っ青になって呆然としているだろう私に、壱くんが「謝ってたよ」と言いながら頭にぽんっと手を載せてきた。大きな手に、私の頭が包まれる。