人に必要とされればなんだってした。
なんだって嬉しいとさえ思った。
一生懸命、笑っているようにしたし、誰かを傷付けるようなことはしないでおこうって。
誰かに迷惑をかけないようにしようって。
私なりに、頑張っていたつもりだった。運動が出来なくても出来るようになろうと思ったし、ピアノをうまくひけるようになろうと思った。
「お姉ちゃんをもうちょっと見習って、ねえ」
お姉ちゃんのようになりたいと思って。お母さんの言うような娘になりたくて。お父さんがかわいがってくれるように。
なりたい自分になるように、頑張ってたんだよ。
「また、黙るでしょう、こういうとき」
「もー、お母さんいいじゃない。茉莉だって色々思うことがあるんだからあ。そういうのも必要だって」
「でも! お姉ちゃんはそういうことしなかったじゃない。ねえ、お父さん」
「んー……お姉ちゃんと茉莉は違うから、なあ」
苛立ったお母さんの声。
お母さんの機嫌を取って明るい声で話すお姉ちゃん。
私がなにを考えているのかわからなくて、いつもお父さんは困った顔。
ねえ、私頑張ってなかったかな。
もっと頑張らなくちゃいけないのかな。
頑張るから、誰か、応援してよ。
心のなかで、いつもの様に叫び続けるしか出来ない弱い私は、どうしたら、違う方法で頑張れるんだろう。
ただひたすらに、勉強したり、運動したり、人付き合いをしたりしなくちゃいけないのかな。
人の考えていることを先回りして、上手い返答を探しださなくちゃいけないのかな。
今、この瞬間でさえ、どんな言葉を口にすればいいのかわからない私に、そんなこと出来るのかなあ。
視界がくすんでくる。目の前にいる家族は、もう、どんな顔をしているのかわからないくらい、真っ白で、影しか見えない。
ぼんやりと、三人の影を見つめながら、どうしたらいいのかわからなくなっていると、その後ろに、ふたつの黄色の瞳が浮かび上がってた。真っ黒の身体に、大きな黄色の瞳。さっきまで窓際にいたはずなのに、いつの間にみんなの背後に回ったんだろう。
つい、その目をじっと見つめてしまう。
何も語らない猫の瞳。何を思っているのか全くわからない。だから、私はずっと、勝手に解釈をして自分を勇気づけていた。
勝手に思い込んで、勝手に都合のいい言葉を脳裏に浮かべて、やり過ごしていた。
私は何度、彼に〝頑張って〟を言わせただろう。
彼に、何度励まされてきただろう。
『頑張りたいの?』
うん、今ならはっきりと、そう告げることが出来るよ。それは、きみが教えてくれた。出来るんだっていう可能性を、私にくれた。
『きみは、どうしたいの?』
私は——……。