「茉莉ちゃん」
おばあちゃんのためらいがちな声が聞こえて、顔を上げる。ドアが空いて、怒った様子のお母さんと、肩をすくめたお姉ちゃんと、渋い顔をしているお父さんが私を見下ろした。
私は伸ばしていた脚をそっと畳んで、こたつの中で正座になった。
私に合わせたのか壱くんも正座して少しだけ頭を下げる。
おばあちゃんが壱くんに関しては説明してくれていたのだろう。両親は彼になにも告げることなく同じように会釈してから私を見据えた。
「なにしてたの?」
低いお母さんの声に、いつもの様に喉がぎゅっと詰まってうまく声が出なくなる。
「茉莉、なにしてたの、学校サボって」
「……おばあちゃんに、会おうと思って」
「なんで」
はあ、と溜息が聞こえて今度は胸がぎゅっと痛んだ。
「そうやって怠けるから……あなたはいつも肝心なところで踏ん張れないのよ?」
いつも、こうなんだ。
いつも、この台詞を聞く度に、疲れてしまう。テストの点数で、あまりよくなかったとき。ケアレスミスで満点が取れなかったとき、体調不良で普段よりも大幅に点数が下がったとき。
お母さんとお父さんはいつも、私にそう言った。
——『ちゃんと最後まで頑張らないから』
頑張ってる。毎日勉強してるし、テストの見直しだってやっている。それでもまだ、足りない。もっと、もっとやらなくちゃいけないんだ。
今の頑張りじゃ、不十分なんだ。
「……今日、美和子ちゃんが家に来たわよ」
思いがけない名前に、目が見開いた。
美和子が、家に? なんで?
そんなの、理由はひとつしかない。私が、学校をサボったことしかありえない。もし、もしも、美和子が学校でのことをお母さんに告げていたら……。
「美和子ちゃんと、ケンカしたんですって? そのせいかってすごく落ち込んでたわよ?」
呆れながらも、同情のようなものを含んだ優しい口調が、私の体温をどんどん下げていく。一番、知られたくなかった。だからこそ私は毎日、なんでもないふりをして、ひとりきりの学校にも耐えて過ごしていたのに。
「なにがあったのかは聞いてないけど、茉莉は人付き合いがうまくないから……でも、そんなことでさぼってちゃだめでしょう?」
わかってる。
何度も言われてきたからわかってる。
すぐにたくさんの友達が出来るような社交性もないし、誰とでも仲よく出来るような愛想もないし、喋ることも下手くそだ。現に今だって、今までだって、私はこういうときなにも口にできない。
だけど、だからこそ、頑張ってたんだよ。