お風呂から上がると、テーブルの上にはお鍋が用意されていた。
きっと冷えているだろう私たちのために。
部屋の中まで温めるくらいの湯気が立っていて、食べ終わる頃には長袖のジャージが暑いと思うくらいに身体が温まった。
「お父さんとお母さんとお姉ちゃんも、今日、ここに来るって」
「……そっか」
連絡してくれてありがとう、と小さな声でつぶやくと、おばあちゃんは困ったように微笑んだ。
ご飯を食べ終わるまで私に言わなかったのは、気を使ってくれたのかもしれない。
「俺、泊まって大丈夫なのかこれ」
不安そうな壱くんに、おばあちゃんはにっこりと微笑んで「ここはわたしの家だもの」と言ってくれた。
「……みんな来るのかあ……」
奥の和室に壱くんとこたつに入ってぼやいた。
頑張ろうと思ったのに、やっぱり考えると気が重い。なにを言われるんだろう。私は、どう頑張ればいいんだろう。
「いやなら逃げればいい」
私と壱くんは向い合って座っている。その間から顔だけを出して眠そうな顔をしながら黒猫が言った。ちなみにこたつの中には他に三匹の、おばあちゃんの家に居着いた元野良猫たちもいて、こたつの中は定員オーバー状態。
そのわりに黒猫は、まるでいつもここで過ごしているみたいに堂々と陣取っている。
このままここに居着いてしまうかもしれないと思った。他の猫達とも仲よくやれそうだし。
「……また、そういうことを言う」
「きみたちは本当に何度も同じことを繰り返すな」
猫に言われるとちょっと悔しい。
「俺も親父に連絡しなきゃな……」
思い出した壱くんも、私と同じような重い溜息を吐き出した。
今日は本当に不思議な一日で、まるで夢を見てたんじゃないかと思うくらい、この先の日常を想像すると気持がしぼんでいく。
ふたりしてスマホを取り出し、彼はメールをして、私は電源を切っていた間に届いていたメールと留守電を確認し始めた。
『どこにいるの!?』
『とりあえず連絡をしなさい』
『なにかあったの!?』
最初のほうは怒りを含んだお母さんの声が、徐々に不安を帯びていく。
お母さんのこんな声を聞くのは初めてだ。お母さんは、どんな気持ちだったんだろう。
それでも、顔を合わせたらきっと、いつもの様に少し怒ってから困ったようにため息をつくんだろうなと思う。