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遠くで、葉っぱがこすれる音が聴こえる。
さわさわさわさわ、そんな音。それは風の音のようにも聴こえる。さっきまで真っ暗闇にいたはずなのに、聞こえてきた音によって、世界に色が広がっていく。草むらの緑、空の青と雲の白。微かに聴こえる水音が、水の色と、その脇にあるだろうコンクリートや土の色を私に与えた。
私、なにしてるんだっけ。
なにをしようとしていたんだっけ。
ううん、そんなの、どうだっていいんだっけ。
ひゅうっと風が吹き抜けて、身体がぶるっと震えた。なんだか寒い。なんで寒いんだろう。気がつくと、どこもかしこも寒い気がしてきた。体の芯まで冷えきっている。
自分の身体を抱きしめて、震えを抑えていると、ふと風がやんだ。突然私の目の前に壁ができたみたいに。
「……ん……?」
瞼が開く。
視界の先には……ひとりの男の子が、私を見下ろしていた。栗色の、ちょっと長めの髪の毛に、少し垂れ下がり気味のくっきり二重の目元。かっこいい雰囲気の男の子が、私になんの用事だろう。
っていうか、今、どういう状態なんだろう。
ぼんやりと考えていると、「生きてんの? 死んでんの?」と問いかけられた。
「え、え……?」
「え?じゃねえよ」
怪訝な顔を私に向けて「なにしてんの?」と言われた。
なに、してるんだっけ、私。ぼーっとしていた頭がどんどんクリアになっていって、がばっと起き上がる。男の子はちょっと吃驚して一歩下がった。
周りは、草むら。
そう、草むらで、猫としゃべったのは記憶にある。それから、なにしてたんだっけ私。いつのまにか眠ってたってこと? いつ眠ってしまったのだろう。もしかして、あの黒猫としゃべったのも、夢だったのかも?
「どーでもいいけど、この時期こんなところで寝てたら風邪引くか凍死するぞ」
そう言って、見知らぬ男の子は私の隣に腰を下ろした。
えーっと、この人は、誰だろう。服装を見ると、私と同じ紺色のチェック柄のスボンを履いている。ということは、同じ高校なんだろう。この柄の制服は私の通う高校だけだ。
でも、この人のことは見た記憶がない。こんな男の子だったら、見たことくらいありそうだし、一度見たら忘れそうにないけれど。
栗色の髪の毛が、草と同じように風が吹くたびになびいて寒そうだけれど、彼の表情は気持ちよさそうだった。
隣に座ったけれど、ここで一緒に時間を潰そうってことだろうか。でも、この人、初対面、だよね。
私が隣りにいることなんてどうでもいいことのように、背を伸ばしてからごろんと横たわった。と、同時に「ぎゃ!」と声が響く。