「あー……親父にサボってんのバレたっぽいな……ちゃんとあいつに口止めしときゃよかった」
はあーっと面倒そうなため息を落として頭をかく。
「あいつって?」
「弟。五つ下の弟。今日は帰り遅くなるって言ったら、まんま親父に告げたっぽいな……。こんな日に限ってなんで早く帰ってくんのかなあ」
弟がいるんだ。
壱くんの弟ってどんな感じだろう。壱くんと似てるのかな。
困ったような面倒そうな彼の心境よりも、そっちのほうが気になってしまう。五つ年下ってことは、今小学五年生かな。
「今までは、隠せたの? 結構サボってるでしょ、壱くん」
「よくわかったな。家に誰もいねえからな。親父仕事忙しいから帰ってくんのも夜中だし」
わかるよそのくらい。
手にしているスマホが無音だけれどピカピカと光り出して、それが何かしらの連絡が届いたことがわかった。メール、にしては長いし、壱くんも画面を睨みつけたまま動かないところを見ると、電話だろう。
バレたと言っていたお父さんから、かなあ。
じっと見つめていると、点滅が途絶えて彼がほっと息を吐きだした。
あまりにも堂々としているし、しょっちゅうサボっている感じだから親からの連絡とか気にしない人だと思っていた。
けれど、本当は真面目なんじゃないかな。弟にもちゃんと報告しているし、父親の連絡に戸惑っている姿は、決して不まじめだとか無気力だとか、そんな今までの壱くんとは違って見える。
「怒られる?」
「……だろうな。弟放ってでかけている上に学校サボってるしなあ。いつもは夜には家にいたんだけど。親父にもついたウソもバレたな、これは。まあ、しゃーねーか」
肩をすくめて諦めたようにスマホをポケットに戻す。
「弟は、ひとりで大丈夫なの?」
「大丈夫だろ。今日くらいいいかなーって思ってたけど、親父早く帰ってくるみたいだし、まだ友達と遊んでるだろうしな、あいつも」
もう投げやり、そんな雰囲気だ。
でも、今更どうしようもない、という気持ちはわかる。
私も、今、両親から連絡が入ったって帰りたくないもの。ここまで来たのに、なにもしないで家に戻るなんて、したくない。
でも、用事が終わったら、彼はきっと自転車に乗って来た道を戻っていくんだろうな。
どのくらい時間がかかって、いつ家に戻れるのかわからないけれど、彼はきっと帰ってしまう。
そう思うと寂しさがこみ上げてきた。