高架下を行けばそれなりにたどり着くだろう、という壱くんの意見で、高速道路の下を自転車で走った。田舎の方から古い民家の立ち並ぶ場所に変わる。

 もう学校も終わる時間なのだろうか、小学生の下校集団と何度かすれ違った。たまに制服姿の女の子も見かける。

 知らない制服だから、中学生なのか高校生なのかよくわからないけれど、取り敢えず学校をサボってウロウロしていることに緊張することはなくなった。

 たまにスマホで位置を確認しながら、彼が自転車を漕いでいる。


「そういえば、壱くん、さっき通ってた学校って言ってたけど、この辺に住んでるの?」
「んなわけねーだろ。朝何時に出なきゃいけねーんだよ」


 ふと口にすると、彼が呆れた表情で私を一瞥した。寒さからか、鼻の頭が少し赤い。


「小学校卒業と同時に引っ越したんだよ、親の離婚で」
「そう、だったんだ」


 お昼に聞いた、お母さんがいない理由を彼はなんでもないことのように口にする。あんまり、気にしてないのかもしれない。

 グラウンドを見つめる彼の視線を思い出すと、胸が切なさを伴って傷んだ。

 サッカーボールを眺める眼差しは、どこか懐かしそうだった。サッカーをやめてしまったと言っていたけれど、すぐにやめたわけじゃないだろう。どれだけ才能があったとしても、あれだけボールをキレイに操れるのだから、それなりの時間をサッカーに費やしたに違いない。


 それだけ練習して続けたものを、〝無駄だから〟っていう理由で、やめてしまえるものなのかな。


 あの時、あのグラウンドに立ち寄ったのは、ただ、懐かしかっただけなのかな。


「寒いからスピード落としてくれないか」
「わがまま言うなお前」


 黒猫のぼやきに、壱くんがじろりと睨みつける。けれど黒猫は気づいていないのか相手にしていないのか丸まったまま目も開かなかった。


「ほんと、猫は気楽だよな」


 俺らも寒いっつの、と今度は壱くんがぼやく。

 手袋してきたらよかったな、とどんどん冷えていく空気の中を駆けながら思った。心なし、空の青さもくすんで見える。もう数時間もすれば日が沈んでしまうだろう。



 たまに会話をして、たまに猫の偉そうな口調とわがままに苦笑を漏らして、のんびりと進み続けた。上り坂が来れば自転車を降りて、信号待ちの間にお茶を呑んだりしながら、本当にのんびりと。

 どのくらい経っただろう。

 一時間、いや、二時間は経っているような気がする。高架下ってどこまで続いているのか検討もつかないほど、同じ景色ばかりが通り過ぎていく。

 多少、住宅街だったのが、空き地ばかりになったり、こんな店に人が入るのかと心配になるほど小さくて汚いお店が立ち並んでいたりと変化はしているけれど。

 流石にもう、おばあちゃんの家まで半分は過ぎた来たよね。

 そんなふうに思ったのを察したように、黒猫が大きな欠伸をしながら

「まだつかないのか?」

 と、飽きた口調で告げた。