学校に行くことに気を重たくして毎日必死に自転車を漕いでいた。涙を見せないように、大丈夫なふりをして、歯を食いしばっていた。
「頑張る以外の方法を、知らないから」
ぽろりとこぼれた言葉。
いろんなことを、頑張ってたなあって、思い出して思う。それらが正しいかと言われれば決してそうではないことくらいわかっている。壱くんが私に言ったように、頑張るのが下手くそなんだ、きっと。
でも、頑張っていた。
なんで、そんなに頑張っていたんだろう。壱くんの質問を自分にしてみれば、答えは知らなかったから、につながってしまう。
「頑張って、無意味なんだったら頑張りたくねえな、俺」
パタン、とお弁当箱を閉じる音がして、彼が食べ終わったことがわかった。私の菓子パンはまだほとんど残った状態だ。せっかくもらったから一口食べてみると、クリームの甘さが口の中に広がる。
「もう頑張らなくていいよって言われたら、頑張る気なくなるだろ」
「……言われたの?」
手をついて、身体を反らす壱くんは、空を仰いでいる。
私の質問に、暫く間を置いてから「昔な」と小さな声で答えてくれた。
「だからサッカーもやめたし、学校も適当。飯は仕方なしにやってるだけ」
なにがあって、そんなことを言われたんだろう。それを言われて、全てを放棄してしまうほど、頑張っていたことなのかもしれない。じゃなきゃ、今、かすかに震える声に、なるはずがないよね。
「ケンカした親友と、仲直りするのも面倒くさい」
「親友と、ケンカしたの?」
「サッカーやめたことでな。無意味だって言ったらすげえ怒られた」
ケラケラと、珍しく笑っている彼は、とても痛々しく見える。初めて見る彼の笑顔が、こんなにも自虐的な意味を含んだものだなんて。
でも、彼に頑張ろうよ、なんて言葉は言えない雰囲気がある。
頑張ることしか出来なかった私と、頑張ることだけはしないと言い切る彼は、全く違った立場と考え方なのに、こうして隣に並んで話していると同じ場所に立っているような気がした。
両極端だから、同じ線上の端と端にいるのかもしれない。
「なんで、みんな頑張れるんだろ」
それは、純粋な疑問だった。
「すげーなーと思う気持ちはあるけどな。頑張って、よく言う努力は報われる、みたいなパターンもあるにはあるんだろうけど。そんなの博打みたいじゃねえの?」
博打、か。
じゃあ、私がしてきたことで招いた結果は、ハズレだったってことなのかな。
バレーのレギュラーになれなかったことも、結局美和子は県大会で優勝できなかったことも。
「頑張って時間と気力を無駄にして、なんにも残らないどころか虚しくなるようなことよくするよ」
「頑張りたいの?」
「いいや、全く」
なんとなく感じた疑問は、きっぱりと断言された。
だけど、壱くんはやっと、初めて、その時私に微笑んでくれた。