「茉莉、どういうつもりなの?」


 帰りに美和子は私に怒った。

 それは当然だと思う気持ちもあったから、「ごめん」と謝ったけれど、美和子は瞳に涙をいっぱいにためていて歯を食いしばっていた。


「……でも、付き合ってるから」
「わかってよそんなこと! 断ってくれたし、なんにも問題ないよ。でも、なんでそれを茉莉が手助けするの!? 私がそれを聞いて何も思わないとでも思ったの?」


 美和子がこんなふうに、怒りと悲しみで私に声を上げるのは初めてだった。


「茉莉は、いつもそうよね」


 唖然とする私に、今度は自嘲気味に微笑んで見せる。
 その顔に、私はまたなにも言えなくなって、黙っているしか出来なかった。


「私たちみたいに恋愛してるの、馬鹿みたいって思ってるんでしょ?」
「そ、そんなこと」
「だってそうじゃない! なにを言っても上辺だけの言葉ばかりで、私は関係ありませんって感じで、今回のことだって、ちょっと考えれば私がどう思うかってことくらいわかるでしょ!」


 叫ぶ美和子を見ていると、言葉がどんどん失われた。

 どう言えばいいのか、どんな言葉を紡げば美和子がまた、笑ってくれるのか。どれだけ想像しても答えが浮かんでこなくて、無言で突っ立っていた。


「ねえ、今、茉莉はなにを考えているの?」


 問われても、言葉が出てこない。喉に何かが詰まっているみたいに、締め付けられて、どうすることも出来ない。


「茉莉の意見は、ないの?」


 私の意見を言ってしまったら、どうなるんだろう。美和子はもっと悲しんで、怒るかもしれない。大丈夫だと思った、という答えは、美和子の言うように美和子の気持ちを考えていなかったのかもしれない。

 なんとか必死に、か細い声で発したのは「ごめん」という短い言葉だけだった。


「茉莉は本当に、なにも言ってくれないね。私には言いたくないのかなって思ってなにも言わなかったけど、それならそうと言ってくれればいいのに」


 私を見る美和子の瞳は、簡単にいえば嫌悪だった。

 睨みつけて、私を縛り付けるような、そんなもので、私はそれにすらなんの言葉も返せなかった。


「嘘つき」
 


 私がひとりきりになったのは、そんな、冬の始まりの日。


 ◇


 あんなに好きだった学校は、あの日から苦痛なものになった。