「頑固だなんて、初めて言われたよ」
「お前相当頑固だと思うぞ。言いたいこと言わねえくせに、思ってることはすげえ顔に出てて絶対納得してないし」
そういえば、猫にもそんなことを言われたっけ。
思い出して黒猫に見るといつの間にかご飯を食べ終えて毛づくろいを始めていた。私と壱くんの会話には興味がないみたいに、粗知らん顔をしている。
落ちてしまったお弁当を拾い集めて、元に戻した。
「やるよ」
「……ありがとう」
自分のお弁当の殆どを食べ終えた壱くんが、コンビニで買ったばかりの菓子パンを私にくれて、素直にそれを受け取る。申し訳ない気持ちになって「あとでジュースおごるね」と言うと「どーも」と軽く返事をされた。
「なんでそこまでして頑張れんの、お前」
そんなに頑張っているつもりは、今はないんだけど。
首をかしげながら「んー」と声を出す。青い空を流れる雲を見つめていると、少し、自分のことを客観的に見ているような感覚になった。
◇
学校に行くことが、好きだった。
「茉莉!」
そう言って、私に笑いかけてくれる美和子がいつもそばにいてくれたから。
美和子と出会ったのは小学校の頃で、同じクラスになって家も近かったから一緒に登下校をするようになったことから仲よくなった。
学校に行けば美和子がいて、友だちがいて、私は笑っていられた。誰かと比べられることもなかったし、勉強ではほめられることだって多かった。美和子と違って運動は全くできなかったけれど、逆に勉強は私が教えることもあったっけ。
学校から帰って遊ぶようなことは殆どなかったけれど、それは、私が毎日なんかしら忙しかったからだ。ピアノの練習をしたり、勉強をしたり。
時間があったって遊びに出かけるとなにか言われるかもしれないと家にいた私を、美和子は何度も誘ってくれたし、何度断っても笑って許してくれた。
私がひどく落ち込んだ時は、毎日迎えに来てくれて、私にたくさんの言葉をかけてくれた。