「あ、ありがとう」
「悪かったな」
予想もしていなかった突然の謝罪に、「へ?」と素っ頓狂な声を上げると、彼は少し罰が悪そうに顔を歪める。
だ、だって、突然謝られても、なにに対してなのかわかんないんだもの。
オロオロしながら「あ、あの」とどうにか言葉を続けようとしたけれど、うまくいえない。私は本当に、コミュニケーションが下手くそだ。
「さっきは、言い過ぎた」
……さっきの、ってどれだろう。なんて、そんなこと言うとまた怒られそうだなと思って「そんなの、いいよ」と返事をした。悔しい気持ちはまだ残っているけれど、彼に怒っているとか、そんな感じじゃない。
ふるふると頭を振って、俯いたまま自分のお弁当を取り出す。
これ以上この話をしていると、自分が泣いてしまいそうな気がした。
「は、壱くん、よく食べるんだね」
強引に話題を変えて笑ってみせると、彼は少し怪訝な顔をしたけれど「まあな」と私の話に付き合ってくれる。それにほっと胸をなでおろしながら「男の子ってすごいね」と言った。
「どうだろな。俺の場合朝飯食ってねえから」
「そうなんだ。だったらお腹すくね」
膝に手の載せて、お弁当の蓋をあける。彼のお弁当は半分が真っ白のご飯で、半分に牛肉の炒めものと、ほうれん草のおひたしみたいなものが入っている。私のお弁当は、色とりどりのお弁当で、隣に並べるとその差が際立つ。
私のお弁当は可愛すぎると思うけれど、壱くんのはなんというか、豪快だ。男の人が作ったって感じがある。いや、お母さんが作ったのかもしれないけれど。
「お前の弁当、すげえな」
「え、ああ、うん。お母さんが……」
「ふーん。いいじゃん楽で。俺自分で作んねーといけねえから」
そっかあ、と答えてから「え!?」と大きな声を出してしまった。
お弁当作ってる、って言った? 壱くん、自分のお弁当自分で作ってたの? 料理できるの?
「す、すごいね!」
「俺んちおかんがいないからな。俺がやんねーといけねえだけ」
ああ、だから、朝ごはんも食べてないんだ。
そっか、お母さんがいないのか。聞いちゃいけないことを聞いてしまったのかな、と少し不安になったけれど、彼の表情は変わらない。
お母さんがいなくて、自分で料理して、自分のお弁当も作ってるなんて。なんか、そんなことしそうにない感じだからびっくりした。
すごいな。私だったら、そんなのできるのかな。お母さんがいなかったら……。