「友達がうまいからなに?」
「え? な、なにって……それだけ、だけど」
「友達みたいにうまくなりたかったってこと? 友達に負けたくなかったとかそういうの?」


 質問の意味がよくわからなくて、ただ首を傾げた。

 彼はボールを地面でピタリと止めて、ため息のようなものを吐き出して、私を見る。

 すごく、軽蔑するような視線に感じるのは、なぜだろう。そんなふうに思われるような発言をしたようには思えないのに。


「お前見てると、なんか、無駄の塊って感じ」
「……なに、それ」


 無駄の塊?

 それが嫌味であることくらいはわかる。

 彼の表情は相変わらず冷めていて、今までと同じものだけれど、バカにされていることくらいはわかる。

 なんで、そんなことを言われなくちゃいけないんだろう。
 さすがにその発言にはカチンときてしまって、私の口調も少しきついものになってしまった。


 彼はいつもそんなことばかりを口にする。
 無駄だとか、無意味だとか。

 なんで、私のしてきたことをすることを、そんなふうに初対面の人に言われなくちゃいけないのか。

 むっとした表情をしていたことに、彼も気づいたのだろう。少しだけ感心したように眉を持ち上げてから、ほんのすこし、わずかに、笑ったように見えた。


「なんで、壱くんは笑ってるの?」
「別に笑ってないけど。笑ったんだとしたら、バカだなあって思ったからかな」


 私にしては必死に、精一杯、彼に食いついたつもりだったのだけれど、堂々とバカにされてしまって、ぐっと言葉に詰まってしまう。湧き上がる感情が怒りであることは間違いないのに、それを伝える言葉が全く思い浮かばない。


「バカみたいだなあーって、自分で思ったりしねえの?」
「なんで、そんなこと思うの?」


 うまく言い返せない自分が悔しくて、奥歯をぐっと噛む。

 黒猫に触れる手もぎこちないものになっていく。柔らかいはずの黒猫の毛の感覚が、曖昧になった。


「俺、無駄な努力って嫌いなんだよな」


 ポケットに手を突っ込んだまま、彼がボールをコロコロと転がした。それに黒猫が反応して、ゆっくりと腰を上げる。のろのろとそのボールの様子を探るように近づいて、顔をボールと同じように左右に動かしながらしっぽの先を微かに揺らした。

 それを無視するように、彼が力いっぱいボールを蹴り飛ばす。

 黒猫はそれに瞬時に反応してボールを追いかけたけれど、猫より早くボールはサッカーゴールのネットを揺らした。壱くんの位置から数メートルも距離があるのに、まるで吸い込まれるように弧を描くのがわかった。