住宅街からまた静かな道に変わっていき、田んぼが広がり始めた。
お昼が近いのか、どこかからおいしそうなにおいもする。外を走り回っている子供も見かけるようになった。とある家の住所を確認すると、見覚えのある市町の名前だ。
この町は、私の家からどのくらい離れているんだっけ。まだ市は変わっていないことを考えると、全然離れていないのかもしれないと不安になる。
確かおばあちゃんの家に行くまでに別の市も通らなくちゃいけなかった気がする。おばあちゃんの家までは、まだまだかかりそうだ。
今日中に無事着けるんだろうか。真夜中になるのも困るし、かといって野宿もしたくないし、そこまで連絡が取れないと、大事になるかもしれない。
不安を感じながら目の前を走る壱くんの背中を見つめる。
前を走る壱くんは、迷うことなくまっすぐに進んでいた。まるで、私のおばあちゃんの家を知っているみたいに。だいたいの時間も場所もわかっているのかな。
聞いてみたいけれど、話しかけるのはなんだかやだしなあ。なんでそんなこと聞くの?とか言われそう。ちゃんと答えてくれるようにも思えない。
ふうーっと小さなため息をこぼしてから黒猫を見ると、静かにしっぽを大きくばたばたと動かしている。
顔をきょろきょろさせていて、落ち着きがないように見える。
すっくと立ち上がったかと思うと、その場でくるりと回ってまた座り込む。
上から見ると、手足がすっぽりと身体の下に入ってしまってまんまるに見える。
住宅街を突き進むと、広いけれど通りの少ない道路の上を走る歩道橋のような道に変わり、目の前には自転車では到底登れないような階段が見えた。その奥に小学校か中学校か、わからないけれど学校がある。
この階段、どうするんだろう。まさか、自転車を持ちあげるとか?
私の不安を察したのか、壱くんが振り返って「遠回りになるけど」と階段の下で左に曲がった。歩道のない道路の隅っこを、車の邪魔にならないように登っていく。といっても、車は全く通らないのだけれど。
さすが、長い階段があっただけあって、道も急な上り坂になっている。
「ご、ごめ……、ちょっと、降りる」
数メートル進んだだけで息が切れてしまい、すぐに自転車を降りる。声をかけたけれど、聞こえなかったのか壱くんはぐんぐん立ち漕ぎで登っていった。
「体力がないな、きみは」
「……運動なんてなにもしてないし……元々、得意な方じゃないんだもん」
「そういうのは、苦手というんだ」
そうハッキリと言わないで欲しい。運動神経がないのはちょっとしたコンプレックスだっていうのに。こればっかりはどんなに頑張っても全く上達しなかった。
だからこそ、私には勉強しかなかったのだ。
……その勉強だって。勉強だって、できなかった、んだっけ?
自分で思い出してみると、浮かんでくるテストの点数はどれも八〇点台から九〇点台のものばかり。通っている高校だって、県内では一番高い偏差値の高校だった。
なのに、どうして私、勉強が出来ないって思ったんだろう。