頑張りたくない。

 だけど、彼の言葉は悔しくて仕方ない。
 猫の言うとおり、頑張らなくていいんだから、彼の言葉に怒るのは違うと思う。

 それでも、彼の言動を受け入れる気持ちにはなれない。


「……やだな」


 ぽつりと本音をこぼした。それはとてもとても小さな声だったらしく、黒猫もなんの反応を見せなかった。

 少し前を走る壱くんの背中。このまま彼と一緒におばあちゃんの家まで行くことなんか、出来るんだろうか。仲よく話せる気持ちにはなれないし、どんなに話をしたって、仲よく出来そうな要素だってない。

 おばあちゃんの家まであと何時間かかるんだろう。それまでずっと、一緒にいなくちゃいけないなんて、嫌だ。

 嫌ならこのまま、どこかに行けばいい。

 なにも言わずに方向転換しちゃえばいいし、本人に一緒にいたくないと告げたって、彼なら気にしないだろうと思う。


 なのに。


 ハンドルを持つ手はただ彼の方向を指したままで、曲がることができない。いつまでたっても彼のあとを追いかけ続ける。

 私の自転車のかごの中では、黒猫がまるまって、気楽そうにしっぽをゆらしていた。



 私が猫なら、きっと、好きなところにいけるんだろう。

 だけど、私は弱虫で、それは、嫌なことを忘れたって変わらない。