「壱は学校とやらに行かないことのほうが多そうだな」
「そうでもねえよ。半々くらい」
否定しているけれど、半々はサボり過ぎだと思う。
それなりにモテそうな、注目されそうな彼のことを私が全く知らないっていうのは、学校に来ていない人だったからなのかもしれない。でも、半分も学校に来ていないなら、サボることもなれていて、堂々と過ごせるだろうな。
「猫、みたいだね」
「は? 俺が?」
「やめてくれよ、ぼくと壱を一緒にするような発言は」
ひとりごちると、それを拾ったふたりが同時に反応を示した。
「自由な感じだし……羨ましいなって」
「俺は猫ほど気楽に生きてねえよ」
淡々と話す壱くんの背中は、私には猫のように見える。かといって、黒猫と同じかと言われると、ちょっと違うような気もするけれど。
その違いをうまく説明はできない。ただ、自由で、我が道をゆく感じが似てるなって思っただけだ。
ただ、黒猫は心底嫌そうにもう一度「やめてくれよ」と言った。
「なんで? そんなにいやなの?」
「ああ、嫌だね。あんな殻に閉じこもった捨て犬みたいな壱と一緒にしないでほしいね」
殻に閉じこもった捨て犬……?
そんなふうには見えないけれど、猫にはそう感じるらしい。
ただたんに人間と一緒にされることが嫌いなのかな。猫みたいに自由な生き物からすれば、人間は犬っぽい、と思えなくもない。
黒猫はふん、とちょっと怒った様子でそっぽを向いている。そんな怒るようなことでもないのに。
壱くんはというと、なにも言わずにのんびりと自転車を漕いでいた。
猫のいうことには興味がないんだろうか。あまりにもなんの反応もない彼は、まるで黒猫の言葉なんて聞こえてなかったかのようにも見える。
通り過ぎた一軒の家の中から、タイミングよく犬の鳴き声が聞こえた。キャン、という小型犬の声は、私たちを牽制しているようにも聞こえたし、飼い主に何かを訴えているようにも聞こえた。
「猫になれたら楽だろうなあ」
壱くんのその声は、思ったことがぽろっと口からこぼれ落ちてしまったみたいだった。
猫になれたら。
ふと、かごの中にいる黒猫の背中を見つめる。
くるんと丸まった身体。自由に揺れるしっぽ。時々何かを察しているのか、耳だけがピクピクと動く。眠たくなったら寝るし、お腹が空いたら何かを食べる。誰かに止められることもないし、止められたって好きにするだろう。
猫がみんな、この黒猫のような考えをするのかどうかはわからない。
けれど、この黒猫と話していると、本当に猫は自由なんだろうなと、思う。そして、ただ自由なだけじゃなく、自分に自信があるようにも見える。
「猫みたいに、なりたいな」
私も。
壱くんと同じように、ぽろりと言葉をこぼした。