その後ろに並ぶと、気がついた壱くんが振り返り、「なにその大荷物」と、壱くんが不思議そうな顔を見せた。


「え、黒猫の……」
「なに、あいつ腹減ってんの?」
「あ、いや、わかんないけど、空いてるかなって」


 レジ前でこんなふうに話していると、バイトのお姉さんが私をチラチラ見ているような気がして、挙動不審になってしまう。壱くんの質問にもしどろもどろになってしまった。

 変に思われたら余計にややこしいのに。もっと彼みたいに堂々としていたいのに。私は本当に小心者だ。

 そんな私は彼にどう映っているのだろう。


「へー。いらなかったらどーすんの、それ」


 いらなかった、ら?

 彼の言葉に顔を上げたけれど、既にレジの方を見てお金を払っていた。払い終わると、さっきまでの会話なんて忘れたかのようにさっさと自動ドアをくぐっていく。

 いらなかったら、なんて考えたことなかった。お腹が空いているんじゃないかなって思ったから、買っただけ。

 でも、いらなかったら?

 そのときは、別に、カバンの中にいれたらいい。いつかまたお腹が空くかもしれないし、持っていたっていい。

 それでいいと思う。だって、私が勝手にしたことだもの。

 だけど、壱くんに言われて、もしもいらなかったら、を想像するととても虚しい気持ちになった。


「お客様?」
「あ、え、あ、はい!」


 呆然としてしまった私に、レジのお姉さんが怪訝な顔をして声をかけてきて、慌てて抱えていたもの全てを広げる。自分の飲み物よりも、多い黒猫のもの。もしかするとムダになるかもしれないもの。

 そんなふうに考えたくないのに。

 私がしたいと思ったから、している行為に、見返りみたいなものを求めちゃいけないんだから。無駄になったっていいじゃない。 

 そう思っているのに、ピ、ピとバーコードを読み取る間、迷いが生じているのを隠せなかった。

 今、レジに並んでいなかったら、私はこれら全て、買ってなかったかもしれない。



 支払いを済ませてコンビニを出ると、壱くんは自転車にまたがって買ったばかりの肉まんを頬張っていた。黒猫が彼を恨めしそうに見つめている。


「聞いてくれよ、この男自分の分しか買ってないんだ! なんて自分勝手なやつだ!」


 私を見るなり文句を言う猫に、思わずほっとしてしまった。
 私が買ったものが、無駄にならなかった。


「買ってきたから、どこかで食べよう」


 そう言うと、猫は「さすがだ!」と嬉しそうに口元をべろりと舐めた。壱くんはそれらを全て我関せずの表情で食べ続けている。

 自由気ままな人だと思ったけれど、他人に興味ない人なのかもしれない。私にあれこれ聞いてこないのも、そういう理由なのかもしれない。猫も結構自由気ままだけれど、壱くんとは違って、わかりやすくワガママだ。

 ふと、壱くんと視線がぶつかって、どきりとした。

 ……何を、考えているかわからない。今、どんなことを思っているんだろう。それこそどうでもいいと思っているかもしれない。けれど、どこか私のホッとした気持ちを見透かされたようで、身構えてしまう。


「行くか」


 だけど、なにも言わない。
 それが、余計に私をわからなくさせて、悪いイメージばかりが膨らんでしまう。