どことなく弾んだ足取りで、給湯室に向かう。

ホライズン総研はワンフロアの一部屋を借りているだけなので、同じ階の別な企業と給湯室は共用だ。

マグカップを洗っていると、背後から葦原くんが覗き込んできた。

なんとなく予測がついていたので、あまり驚かない。
背の高い彼は私の肩口から顔を出す時も少しかがみこむ。


「沙都子さんと俺、仲良いって」


「私、話す人少ないから。前、送ってくれたって話で、そう思ってるだけでしょう。そういうとこあるの。未來さんって」


「送った後、何をしたかも気づいてるかもしれませんよ」


「ないない」


私はぶんぶんと首を振って、マグカップの水を切る。


「沙都子さんの献身的な愛で、彼女は変な噂に煩わされることなく、明日結婚式ですね」


腹に一物ある言い方だと思った。
私はマグカップを布巾の上にひっくり返して置き、葦原くんを肩越しに睨んだ。


「あなたが流そうとしていた悪い噂はもともと事実無根なものだから、彼女には関係なくて当たり前なの。これ以上、変なこと言わないで」