「あ、葦原、明日は沙都子が途中で逃げないように、見張っておいてね」


なぜか未來さんが私の行動を葦原くんに託す。


「沙都子、協調性ないから、同僚と長い間同じテーブルって苦行だと思うんだよね。絶対トイレとかロビーに逃げ出して、私の晴れ姿を見過ごすと思うの。そこをあんたと佐賀で止めてほしいっていうか」


「未來さん、本人を前に言いたい放題ですね」


さすが頬を引くつかせてしまう私。
そんなに協調性ないと思われてたのか……。実際ないけれど。
葦原くんがニコニコと答える。


「いいですよー。でも、俺でいいんですか?」


「いいわよ。最近、あんたたち仲良さそうだし」


どこかで見られていたのかと、一瞬焦る。
しかし、未來さんが突拍子もないことを言うのはいつものことだ。
大方、私がしゃべる数少ない人間に、葦原くんが加わったとでも思っているのだろう。


「沙都子、人見知りで場所見知りだからさ。逃げて迷子にならないように見張っといてよー。あ、与野も頼むね、同期でしょ?」


案の定、未來さんは何の含みもない口調で締めくくった。葦原くんと私の仲を疑うような雰囲気は微塵もなかった。

私のことを完全に幼児扱いしているのが気になるけれど、未來さんが私を特別に心配してくれるのが嬉しい。

未來さんのパートナーにはなれない。でも、仲の良い妹の立場ではいられるのかな。