「あっ……葦原くん、ここ……玄関だよ」


「そうですよ。あんまり大きな声を出すと、ご近所の人に聞かれますね。あなたがどこまで我慢できるか、楽しみだ」


私が唇を噛みしめるのを、葦原くんは心底面白そうに見つめていた。
それから、玄関の上がり框に私を押し倒した。

葦原くんに抱かれるのは、圧倒的に平和だ。
彼を愛しているわけじゃないけれど、肉と肉をぶつけ合い、重ね合うことに、原初的な安心を覚える。
他人との触れ合いは、束の間の幸福。

そうか。
だから、みんなこぞって抱き合うんだ。

この歳で、それを知ってしまった私は、本当に麻薬のように彼の身体に溺れている。

麻薬は効果的で、抱き合っている最中、私は兄の夢も未來さんへの恋心も思い出さない。


大嫌いな男が、私を圧倒的に救っているという事実。

不本意な現状に抗う術がなく、私は今夜も甘んじて行為を受けるのだ。