ふと、横にいたはずの葦原くんを見ると、彼はまったくの無表情で私を眺めていた。一歩引き、まるで観察でもするように。

なんて男だろう。
仮にも先輩がセクハラを受けているというのに。

いや、彼に何かする義理はない。
そんなことを平然と望むな、私。

この男は私を強引に抱くことしか考えていないんだから。
案外、自分を拒絶する私が、脂ぎった中年に触られて怯えているのが面白いのかもしれない。


私はぐっと唇を噛みしめ、早くエレベーターが来るのを待った。

到着したエレベーターは一基だけで、待っている社員が一回では乗り切れないのは明らかだ。

私は列を進むふりをして、西入部長の接触から逃れる。しかし、部長が私の真後ろにぴたりとくっついていることはわかっている。

ようやくやってきた隣の一基に乗り込む瞬間、誰かが私の左手首をつかみ、後方にぐっと引いた。
私は列から飛び出し、驚いて顔を上げる。
私の手首をつかんでいるのは葦原くんだ。