気分がものすごく悪い。
そして、彼に触れられている自分を思い出し、死にたくなる。
溺れながら拒否している私は大馬鹿者だ。


「そんな顔しないで。朝から、誘惑してるんですか?」


エレベーターの到着を待つ人たちの端で、葦原くんが私にささやいた。
こちらは嫌悪100パーセントの顔で見ているのに、それが彼に火をつけるようだ。

ここ三日、都合が合わず、葦原くんに呼び出されていない。
そろそろ欲求がたまっているようで、朝から不埒な言葉をかけてくる彼。


「離れて」


「後輩に冷たくないですか?結構、お世話してると思うんですけど」


無視してうつむくと、まったく別な方向から声をかけられた。


「九重くんだよね。久しぶり」


声の方向に顔を上げると、5年前出向していた先の人事部長がいた。
私がなじめず、2年ほどで出戻らされてしまった会社だ。
気まずく、私は会釈する。


「西入部長、ご無沙汰しております。その節はお世話になりました」


やっとのことで絞り出した挨拶に、50代半ばの西入部長はガハハと大きく笑い、私の肩を大仰に叩く。