兄は小さい頃から私を溺愛していた。
すべてにおいて優秀で利発な兄は、すべてにおいて平凡で引っ込み思案な私を愛した。


『沙都子はそのままがいいんだ』


兄は私を不甲斐ない妹とは見なかった。

何故なら、自分のコピーはいらないからだ。
自分に似て優秀なら、私を憎んだだろう。
そういう人だ。

兄が大学を卒業し、実家に戻ってから、私の息ぐるしさは増した。

真綿で締めるように兄が言う。


『可愛い沙都子、おまえは何も変わっちゃいけないよ』

『おまえは何もできないのがいいんだ。そうすれば、俺が守ってやれる』


呼吸ができなくなる前にと大学二年生から学生寮に入った。
それ以来、家族と同居はしていない。

兄から逃れ、平穏な日々を手に入れたと思った私は、今度は違う種類の魔物に捕まった。

私の弱さが悪魔に付け入る隙を与えているとしたら、その通りだろう。