葦原くんは優雅に指先で私の唇をなぞった。


「そのための沙都子さんです」


「私?」


「あなたは俺の征服心を刺激する。俺の欲求を叶えられ、発散できる唯一の存在かもしれません」


人差し指と中指がさわさわと唇をくすぐる。それだけで、私は葦原くんとのキスを思い出した。
不本意ながら、身体の奥がざわめくのを感じる。


「俺の魔術にかからない清らかな乙女を、汚い地面に這いつくばらせたいんです」


「もう、充分あなたに征服された。私なんかこれ以上おもしろくない……。お願い、解放して」


「駄目です。全然足りない。言ったでしょう?あなたの心を引き裂きたいんです」


言うなり、葦原くんの唇が私に重ねられた。

顎を支える力は強く、口が開かされる。
素早く滑り込んできた舌が生き物のように動き回り、私の脳髄を一瞬でしびれさせた。
絡みつく舌に息が詰まる。


「ん……やぁっ……」


私は精一杯彼の身体を押し返し、唇の自由を取り戻した。しかし、抵抗は葦原くんの嗜虐心に火をつけるようだった。


「可愛い声。あなたがこんな声を出すって、社内の人間は誰も知りませんよ」