「許しません」


葦原くんはあっさりと答えた。心底嬉しそうに微笑んで。


「俺のものになってください。身体を捧げて、心を折ってください。それしか、あなたの大好きな鎌田部長を守る術はありませんよ」


葦原くんは悠々と私に近づき、自らもひざを折った。
私の顎をとらえると、上向かせる。


「欲って言うんですかね。俺はずっとこの欲求を抑え込むことに苦心してきました」


「欲……?」


「周りの人間を完全に支配したい。そんな欲求です」


この男は何を言っているのだろう。

支配の欲求?
彼の言っていることは私の理解の範疇を超えている。


「たぶん、病気みたいなものです。他人を掌握するのに長けているせいでしょうね。完璧に世界を動かしたいんです」


「それなら……政治家にでもなれば?」


「案外、合ってるかもしれませんね。でも、そんなに欲張りでもないんです。俺には自分の見える世界だけでいいんです。居心地よく支配したい。だけど、まっとうに社会生活を営む人間に、そんなのはどだい無理な話ですからね」