がちゃん、と玄関が開く音がした。

はっと現実に引き戻され、後ろを振り向くとそこには葦原くんがいた。


「お待たせしました。夕食は食べられましたか?」


葦原くんの笑顔はいつもの胡散臭いものじゃない。
私の前でだけ見せる本性の笑顔だ。蠱惑的で底冷えのするように酷薄な笑顔だ。


「あ……しはらくんは?」


「これが済んでから食べます」


『これ』とは、私とのセックスのことだろう。


「シャワー浴びてきてもらえますか?」


葦原くんはネクタイを緩め、上着を脱ぐ。
私は首を振った。
葦原くんが訝しげな表情になる。


「浴びないほうが好きですか?それとも一緒に浴びたい?」


「違う。葦原くん、どうか他の方法を考えてくれない?」


日中は店内だったしできなかった。
私は床にひざまずき、土下座に似た格好で彼を見上げた。


「きみの気が済む方法を考えてくれていい。きみと身体の関係を続けるのは……やっぱり困る。私の存在が気分を悪くしたんでしょう?私が会社を辞めればいい?どうすれば許してくれるの?」