「ご……ごめんなさい」


私は自分を恥じるかのように断りを口にしていた。


「デート?」


「いえ、大学時代の友人と約束があるんです」


卒業しても会うような友人なんていないけれど、そんな風に答える。
あたりさわりがないのが一番だ。

未來さんは納得したようで、「また誘う」とデスクを離れて行った。

私は苦しい胸のうちを隠し、未來さんより早くオフィスを後にした。
葦原くんからLINEで指示がきたのはまさにその時。


『まだかかりそうなので、夕食を済ませてから俺の部屋に向かってください』


食欲は相変わらずなかった。
しかし、すぐに彼の部屋に行くのもためらわれた。
コーヒーを飲み、時間をつぶしてから住所の部屋へ向かう。

中央広場を抜け、歩くとライズのタワーマンションが三棟、低層のレジデンスが二棟見える。うちタワーの一棟に入り、エレベーターホールへ。
ファミリー向けの分譲物件ばかりと思っていたら、単身者用の賃貸もあるようだ。

カギを開けて入ると、広いリビングが見えた。奥の一室は寝室だろうか。
間取りは1LDKといったところ。一人暮らしの若者にしては、立地間取りともに不釣り合いに感じる。