「ちょっと風邪気味で」
私は曖昧に口元を緩め、笑って見せた。
午後の仕事を片付ける。
時間が経つごとに気持ちが重くなった。
定時頃、午後中外出していた葦原くんが帰社してきた。同じフロアに彼がいるだけで、空気が薄くなったような気持ちになる。
彼が通り過ぎがてら、私のデスクに小さなビニール袋を置いた。
コトンという音で、それが合鍵なのだと察しがついた。
スマホには彼のマンションの住所が送られてあった。
住所も何も、すぐそこ。ライズのタワー&レジデンスマンションに住んでいるようだ。徒歩5分少々といったところか。
「沙都子、今日この後ヒマ?」
スマホを見て鬱々としているところを、不意に未來さんに声をかけられた。私は飛び上がりそうになる。
「ご飯でも行かない?」
未來さんが魅力的な誘いをかけてくる。
「婚約者さんは……いいんですか?」
「今日、式の打ち合わせだったんだけど、向こうの仕事の都合で延期。ひどいでしょ?愚痴でも聞いてよ」
未來さんの可愛らしいのろけに、胸が張り裂けそうになった。
バカだ、一瞬でも浮かれてしまった。
当たり前のことだけど、未來さんの気持ちが私ではない誰かに注がれていることが苦しい。
私は曖昧に口元を緩め、笑って見せた。
午後の仕事を片付ける。
時間が経つごとに気持ちが重くなった。
定時頃、午後中外出していた葦原くんが帰社してきた。同じフロアに彼がいるだけで、空気が薄くなったような気持ちになる。
彼が通り過ぎがてら、私のデスクに小さなビニール袋を置いた。
コトンという音で、それが合鍵なのだと察しがついた。
スマホには彼のマンションの住所が送られてあった。
住所も何も、すぐそこ。ライズのタワー&レジデンスマンションに住んでいるようだ。徒歩5分少々といったところか。
「沙都子、今日この後ヒマ?」
スマホを見て鬱々としているところを、不意に未來さんに声をかけられた。私は飛び上がりそうになる。
「ご飯でも行かない?」
未來さんが魅力的な誘いをかけてくる。
「婚約者さんは……いいんですか?」
「今日、式の打ち合わせだったんだけど、向こうの仕事の都合で延期。ひどいでしょ?愚痴でも聞いてよ」
未來さんの可愛らしいのろけに、胸が張り裂けそうになった。
バカだ、一瞬でも浮かれてしまった。
当たり前のことだけど、未來さんの気持ちが私ではない誰かに注がれていることが苦しい。