個人営業のイタリアンは路地の一角にあり、昼時ということもあり流行っている。
女性客が多いが、会社の人間は見当たらず、ひとまずほっとした。


「スズキのムニエルと日替わりパスタのセット。俺、これで。沙都子さんは?」


呼び方が名前になっている。
あの夜と同じ呼び方に寒気がした。


「……私は……」


本当に何も食べたくない。
葦原くんに見せられた自分の痴態がずっと脳裏にある。
しかし、リストランテに来て、何も注文しないわけにもいかない。

アスパラとエビのカッペリーニを指さす。
店員は注文を繰り返し、去って行った。


「食べきれなかったら、俺が食べますよ。若いんで。あと、はい、お金は返します」


葦原くんが封筒をテーブルに乗せる。


「男が払うもんですから、ああいうのは」


「葦原くん、本題を話して」


私は意を決して彼の瞳を見つめた。