「ああ、そう。ま、葦原が送ってくれたならよかった。メールは返したんでしょうね」


「もちろんですよ。……ところで九重さん」


葦原くんは私から手を離すと私の顔を覗き込むように見つめてくる。
その顔はいつも同僚に見せる無邪気で、朗らかな笑顔だった。


「体調、悪かったんですか?“あの後”寝込んだりされました?」


この男はわかっていてやっている。
私が“あの後”について思い出し、未來さんの前で青ざめるのが見たいのだ。


「大丈夫だから。心配いらないよ」


努めて冷静に答えた。声が震えなかった自分をほめてやりたい。


「そうですか、ならよかったです。看病が必要な時はおっしゃってくださいね。九重さん、ひとり暮らしでしょう?」


にこやかに言う葦原くんの言葉はひとつひとつが毒物みたいだ。
浴びているだけで、眩暈と吐き気がする。


「なに、葦原は沙都子のこと狙ってるの?」


未來さんが興味本位で言った言葉に、胸がぎゅうっと痛む。

やめてほしい、寄りにも寄ってそんな勘ぐりは。