「わり、今日の外出、延期になったわ。木曜、どう?」


「ああ、うん。大丈夫」


「じゃ、それで!俺、これから別件で出てくるから、朝礼で言っといて」


与野はがっしりした体躯を揺らし、慌ただしく出掛けて行った。

今日の外出がなくなったことにはホッとしていた。
身体はまだ本調子ではない。


入れ違いにフロアに出社してきたのは未來さんだ。

私の顔を見るとにこっと微笑む。
花にたとえるなら凛と咲いた桔梗みたいな人。それが未來さん。

出向から本社に戻された時、閑職に追いやられることもクビすらあり得た私を、当時グループ長だった未來さんがITマネジメントグループで受け入れてくれた。

未來さんは私の恩人だった。
あれからすでに5年の月日が流れている。


「未來さん、おはようございます」


「おはよ。金曜はひとりで帰れた?」


未來さんの邪気のない心配に心臓がはねた。
私があの後どうなったかなんて、彼女は知らないし、この先も知らなくていい。