『沙都子さん』


私を呼ぶ声が耳から離れていかない。

何度も揺さぶられ、終わったと思うとまた引き寄せられる。
あまりの痛みに身体を硬直させ、呻いていた私も、やがて自らゆるく腰を動かしていた。
少しでも苦痛を緩和させようと、悲しいかな身体は素直に動く。


『淫乱だね』


そんな風に彼にささやかれ、怒りと羞恥で気が狂いそうになった。



日曜の深夜、のどの渇きを覚えて目が覚めた。

ぐっしょりと汗をかいていた。熱は下がったようで、倦怠感や悪寒はなくなっていた。
ペットボトルからお茶を飲み、シャワーを浴びる。

苦しい時間は終わったのだ。
もう思い出さなくてもいい。

自分に対してつぶやく。

あれをレイプだと訴えることはできるかもしれない。しかし、半分は合意だったのも事実だ。そして、何かを口にすれば芋づる式に私の恋心が露呈する。

せめて、未來さんの結婚が叶うまで、欠片でも妙な噂にはしたくない。

きっと、葦原五弦の興味も落ち着いただろう。初めて彼の思う通りになったのだから。

大丈夫、私は明日も出社できる。
未來さんに微笑むことができるし、葦原くんの顔を見ても平然としていられるだろう。