お願い。もう終わりにして。

何度も懇願したけれど、彼は私を解放しなかった。
指で、舌で私をもてあそび、楽しそうに言葉で責める。


『綺麗ですよ。声も身体も全部。こんなに乱れて』


『俺を離そうとしてくれないのはあなたじゃないですか。本当にいやらしいですね』


『こんな姿、鎌田部長が見たらどう思うでしょうね。私のために健気なことをと、褒めてくれるかもしれませんよ』


貶められるたび、涙が溢れた。
どうして?
心で好きになっただけなのに、誰にも迷惑をかけないささやかな恋だったのに。

違う。
利用されたのは私の隙だ。

そもそもあの男の薄暗い気配を感じていながら、危険を察知していなかった。反感を買うような態度を示していた私が悪かったのだ。

彼は自信家だ。自分が社内で好かれているのを理解し尽くしている。自分の価値を知り、それを見出してくれる人にはかりそめの好意を示すのだろう。

私が彼のプライドに障ったばっかりに、こんなことになったのだ。

他人とはなるべく関わらず、平穏無事に暮らしていきたい。
それが願いなら、余計な軋轢を避け、同僚に追従しておけばよかったのだ。