カウンターにセットされたチェアにかけ、割と大きな窓から渋谷の街の明かりを眺めた。

今更ながら、自分がしようとしていることに思い至り背筋が寒くなる。
とんでもないことになった。

私は自分と未來さんを守るために、彼に抱かれようとしている。

わずか数時間前、私は失恋に胸を痛めていたけれど、誰かに抱かれることになるなど、露ほども考えつかなかった。


処女に執着なんかない。
元より他人に興味が薄い私が、ここから先、女として男性と性の幸福を味わうことはない。このままいけば間違いなくない。

幸せな結婚、出産。そんなものは、愛する未來さんにこそ体験してほしい。私が同じことを望むとしたら、それは違和感しかない。私にはいらない理想だ。


ここは大人の女ぶって、葦原くんに私の処女を奪って貰おう。
なに食わぬ顔をして、彼に任せておこう。

人生経験として、私だって誰かと寝たことがあるって思い出があっていい。

セックスがどういった行為か知らないわけじゃない。最初は痛いらしいけど、みんながこぞってするわけだし、映画のラブシーンの女優はみんな気持ち良さそうに喘いでいる。

だから、そんなに震えるな、私の手。
大丈夫、大丈夫。ほら、全力で手の甲をつねってみよう。たぶん、この程度の痛み。