「私が嫌だって言ったら、言いふらすの?」


「話のタネくらいにはしますかね。九重さんと鎌田部長、すごく仲がいいし、なるほどって納得する人も多いんじゃないかな」


脅しも同然だ。
しかし、私の視界に葦原くんは入ってこない。

私の頭の中は未來さんのことでいっぱいだった。

ずっと仕事一筋だった彼女にやってきた良縁。
彼女はこれから幸せになるんだ。人生のパートナーと家庭を築くんだ。子どもにだって恵まれるかもしれない。

そんな幸せを、温めすぎて手垢じみた私の恋心でつぶしちゃいけない。1ミリだって傷をつけちゃいけない。

ああ、私のバカ。
違う。
綺麗事を言うな。


私は未來さんにこの幼い恋心を知られたくないんだ。

未來さんの親愛を込めた細やかな友情を失いたくないんだ。

彼女がどれほど優しくても、自分に恋情を抱いていた同性の部下に寛容ではいられないだろう。今までのようなくだけた態度は見せてくれなくなるだろう。