顔をあげ、一歩下がるとそこにはひとりの大人の男がいた。

綺麗な瞳の、愛しい男がいた。


「またね、五弦」


「また会いましょう。沙都子さん、清子ちゃん」


私は清子を抱いたまま、踵を返した。
離れた所で待っていてくれた妊娠8ヶ月目を迎える未來さんと合流する。

葦原くんが彼の進むべき進路をとったことが、振り向かなくとも見えた。



出会い、愛したことは奇跡なのだ。

いつか私たちの人生が重なる日がくるかもしれない。
こないかもしれない。

そこに差などない。どちらも等しく幸福なことだ。

私は愛するということを知っている。
それだけが私のこれからを照らしてくれる。



清子が私の頬をぱしぱし叩きながら言う。


「ママぁ、おなかしゅいた」


「さっき、おにぎり食べたじゃない」


私は美しい瞳の娘に頬ずりをして笑った。






<了>








2015.10.6