「……まさか、認知しろなんて言いにきました?」


葦原くんはゆるゆると私を見て、彼らしくもなく、情けなくおどけた表情を作った。
ものすごく困惑しながらも、両頬は驚きと興奮で真赤になっている。


「冗談でしょう。あなたが父親だなんて言ってません。認知を求めるなら、もっとお金持ちを選ぶわよ」


私もおどけて返すけれど、清子と葦原くんを並べてみて血の繋がりを否定できる人は少ないだろう。印象的な双眸が二対、私を見つめている。

葦原くんは明らかに浮かんだ喜びを噛み潰すようにうつむく。
そして、自嘲的に言った。


「あなたを俺から逃がすつもりで離れました。でも、結局俺は沙都子さんの人生を縛ってしまったんですね」


「見くびらないでくれる?この選択は、私だけのもの。葦原くんの責任じゃない」


私ははっきりと言い切る。

懊悩も、悔恨も、いらない。
清子を産んだのは私の意志だ。

葦原くんには、この選択を笑ってほしい。それが意地悪なあの笑顔だっていい。