葦原くんは私が手を振った相手を視認して、驚いたようにつぶやく。


「あれは……鎌田部長?」


前方20メートルほど先に、大きなお腹をした未來さんが手を振っている。一目見ただけで妊婦とわかる彼女の隣には、きゅっと手を握った少女がひとり。

その少女が私の顔を見るなり、ぱっと未來さんの手から離れ駆け出した。


「ママぁっ!!」


少女は私のもとに駆け寄り、小さな手を私の脚に巻き付けた。

葦原くんが信じられないものを見るように私たちを見つめている。
私は彼に向き直り、言った。


「紹介するわ。娘の清子(さやこ)。もうじき3歳になるの」


私の脚元にまとわりついていた愛娘が彼に向き直る。


「おはよーございましゅ。しゃやこでしゅ」


ぺこりとお辞儀すると、清子のボブの髪とドットワンピースの裾がひらめいた。
そんな清子を、じっと魅入られたように見つめる葦原くん。


葦原くんにはわかってしまうだろう。

清子は面差しこそ私に瓜二つだけれど、瞳だけ父親の珍しい形質を継いでいた。

清子は琥珀色に似たイエローグリーンの瞳を持っているのだ。