大人になってしまった彼を横目で見て、私も薄く微笑んだ。

彼の見つけた答えは、私の心を温めた。
やはり、私たちが離れたことは間違いではなかったのだ。


「沙都子さんは?一度、ホライズン総研を覗きに行きました。あなたは退職した後だった」


葦原くんもまた、私を探してくれたのだ。
その事実が嬉しく、一瞬涙腺が緩みかけた。駄目駄目、泣いたりなんかしたら、葦原くんは困る。


「今は、小さなデザイン事務所でウェブデザインなんかの仕事をしてるの。未來さんのご主人の敬三さんから紹介してもらって。まだ契約社員だけどね」


「お兄さんは?」


「あの人も海外よ。今は、中国でレアメタルなんかの資源開発に関わってる。もう私に何か仕掛ける気力はないみたい」


「そうですか」


葦原くんの安堵の相槌は、ため息みたいに空気に融けた。

日が高くなってきた。背中をすっと汗が伝う。
今日は本当に暑い日だ。30度近くになるだろうと天気予報で言っていた。
私は雲が浮かぶ薄青の空を仰ぐ。


「私も答えが見つかりそうなの」


「答え?」


「うん、あの時は逃げることしか選べなかった。あなたの前から」


私は息を吸い込む。
心を決めて、やや先に視線を移すと、そこにいる人物に向かって片手を挙げた。