私は背の高い彼の顔を見上げた。彼は、前を見据えたまま唇を引き結ぶ。


「解決策、聞いてもいいの?」


「ええ、自分だけの世界にいては見えなかった解決策。それはね、誰かのために粉骨砕身、身をなげうって生きること。死ぬ気で毎日くたくたになるまで働くこと」


葦原くんがゆっくりと微笑んだ。
少しだけ頬を歪めて、困ったように。それは、見たことないような大人の笑顔だった。


「泥臭く必死こいて働くなんてばからしいと思ってました。でも、そうじゃなかった。真剣に人と向き合う。人を動かすんじゃなく、苦しいって感じるまで自分で走る。それだけは、3年間、自身に課してきました」


葦原くんの歩んできた時間を思った。
きっと、今までの自分を全否定する日々だったのだろう。
彼ほどプライドの高い人間に、それはどれほど苦しい日々だったか。


「そうすると誰かが掛け値なしに俺を信頼してくれるんです。俺が愛想なんかふりまかなくてもね。積み重ねていくと、自分の内側に小さな灯りがともるんです。俺の業みたいなものが薄まっていくように感じるんです。こんな風に死ぬ気で働き続けたら、俺の腐った性根も……」


そこで葦原くんは言葉を切った。
熱くなりすぎないようにと、ふうっと息をつく。


「まだわからないですけどね。いまだ、青臭く自分探し中ですから」