部屋から出て、寒空の下を歩いた。

黙々と歩いた。涙が止まらなかった。

こんなやり方でしか繋がれなかった私たちは、こんなやり方でなければ離れることもできない。
せめて、最後に葦原くんが望むようにしてあげたい。
彼の元から消え去ってあげよう。


さよなら、葦原五弦。
さよなら、初めて愛した人。


私は涙が止まるまで闇雲に歩き続けた。



翌日、辞めるつもりで出社した会社には、すでに葦原くんの辞表が置いてあった。
社内は騒然となり、社長が葦原くんの説得に当たるなんて話も出たけれど、彼はその日を境に消息を絶った。


……逃げろと言ったのは、あなたなのに。

答える者はなく、葦原五弦は私の世界からいなくなった。