「はい、すべて俺が仕組んだことですよ」


天使のように清らかに彼は猛毒をささやいた。
彼の肯定がくるくるとすごいスピードで私の全身を回る。


「地検にも証取委員会にも知り合いはいます。お兄さんの不正は事実ですが、彼らに情報をリークしたのが俺です。それから、裏で交渉に当たっている弁護士は俺の起業仲間です。全員グルなら手を損じることはありませんからね」


「うそ……」


「本当です。あなたのお兄さんは在宅起訴され、知人の紹介でやってきた弁護士に会って言われたはずです。『妹に金輪際接近するな』それが無罪に持ち込む条件でしたから。お兄さんはそこでようやく俺の仕業だと知ったんですよ。敗北の苦しみに耐えかねて自殺騒ぎを起こしたそうですね。お疲れさまです」


葦原くんは人をひとり破滅させたことなど、まったくどうでもよさそうだった。
むしろ満足感さえ覚えているような口ぶりだ。

私は震える声で更なる疑問を口にする。


「会社で、笠井さんや……同僚の異動が続いたのもあなたの仕業?」


「ええ、そうです。社長も総務部長も俺の術中にハマってますから、少しお願いすれば簡単でしたよ。邪魔な人間はすべて俺たちの目につかないところに追いやりました。本当は鎌田部長も地方の関連会社に飛ばしてもらおうかと思ったんですが、ご主人が結構手強くて、先手先手を取られてしまい上手くいきませんでした。残念です」


葦原くんはグラスをダイニングテーブルに置いた。それからゆっくりと私に向かって歩み寄ってくる。