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駅の近くでタクシーを降りた。
ずんずん進む。胸が苦しい。
どうか、私の勘違いであってほしい。
そんなことを祈りながら、ライズのタワー&レジデンスにたどり着く。
いつもの手順でエレベーターに乗り、彼の部屋へ向かった。
時刻は22時半。まだ会社かもしれないと思いながら合鍵でドアを開けると、玄関は明るかった。
リビングのソファにもたれ、葦原五弦はそこにいた。
珍しくひとりでウィスキーを飲んでいたようだ。
「おかえりなさい」
「葦原くん……」
「そろそろかなぁとは、思っていましたよ」
葦原くんはソファから立ち上がり、グラスを傾ける。喉仏が動くのが見えた。
彼は私が血相を変えてやってきた理由に心当たりがある様子だった。
「兄が、インサイダー取引で捕まった」
前置きなく伝えた言葉は、語尾が震えた。
「どうか、私の変な勘ぐりならそう言ってほしい。でも……あなたは……この件に関わっているの?」
葦原くんは美しいイエローグリーンの瞳でまっすぐに私を見つめた。
それからふっと微笑んだ。邪気のない天使のような笑顔だった。