「なんで、こんなことになったんだ」


途方に暮れた私たち一家は、病院の中庭で顔を突き合わせ、いまだ混乱していた。
すでに退職し、白髪が目立つ父はベンチで頭を抱えている。
母が横に座り、父の背を撫でる。
私は久しぶりに会った両親の姿が失意に満ちていることが悲しかった。
兄の起訴や自殺未遂よりも。


「起訴されたってこと、なんで私に教えなかったの?」


両親だけで苦しみを受け止めていたのがつらく、責めるような口調になった。
父が力なく首を振る。


「あいつにもプライドがある。妹のおまえには知られたくなかったんだろう」


確かにそうかもしれない。
でも、なぜ?
自殺するまで追い詰められていたなんて、あの兄の話とは思えない。


「お父さん、沙都子、起訴の件はね、取り下げになるかもしれないのよ」


母が希望を含んだ声音で言った。


「嘘、そんなことってないでしょう」


証券取引法に違反している多くの場合、起訴状を出すのは地検、つまり検察だ。
個人とは違って示談は存在しない。
地検が簡単に起訴を取り下げるとは思えない。